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第32話 告白 6-4
だが忙しなく目をさ迷わせる僕に対し、藤堂はいままでにない笑みを浮かべる。ゆるりと唇が弧を描き、瞳には悪戯を思いついた子供のような表情と艶のある光を含む。
「ちょ、待った」
藤堂の手が撫でるように僕の髪を梳き、指先が頬の輪郭を添うように滑り落ちる。その慣れない感触に緊張のためか嫌悪とは違う、ざわりとした感覚が広がった。
藤堂の吐息が微かに僕の唇に触れる。そして僕が藤堂の気配に思わず目をつむってしまったその瞬間――雰囲気を打ち破るように、勢いよく部屋の戸がガラリと音を立てて開いた。
「あ、ごめん。邪魔しちゃった」
その声に慌てて目を開くと、驚きの表情を浮かべる片平が戸口に立っていた。
「うわっ!」
そして片平の存在を頭が認識すると同時、僕は目の前の藤堂を力いっぱい両手で押しやった。藤堂の表情が不機嫌そうに歪む。
お約束な展開で、ほっとしているのはもちろん僕だけのようだ。
「わざと?」
いかにも不機嫌ですと言わんばかりの、黒い負のオーラを発し始めた藤堂がジトリと片平を見る。
「違うわよ、不可抗力。こんな面白い展開だって知ってたら三十分くらいはあとに来てたけど」
藤堂の様子をものともせず、片平は相変わらずの調子で肩をすくめた。
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