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第36話 接近 1-1

 駅の改札ではひっきりなしに人が出入りを繰り返している。目の前で流れていくそんな人波を眺めながら、僕はふと空を見上げる。青空に白い雲は少なくまさに快晴。本当にいい天気だ。 「洗濯でもしてくればよかったかなぁ」  空を見上げたまま、ぼんやりそんなことを考えて少しへこむ。寂しい独身男のよくある虚しい独り言だ。けれどいまの落ち着かない感じを紛らわすには色々考えないといけないわけで、腕時計に視線を落とすと現在の時刻は十時二十五分。その時間に大きくため息が漏れる。 「気が早過ぎるだろ自分」  そうだ、待ち合わせの時間は十一時のはずだ。それなのに改札前の花壇の淵に腰かけて、すでに三十分が過ぎようとしている。 「いや、家にいても落ち着かないから仕方ない」  小さく自分に言い訳をしながら、僕は両手で顔を覆いうな垂れた。  今日はこのあいだ片平に招待券をもらった写真展に行く予定だ。もちろんそんなことで落ち着きをなくしているわけではなく。これからやってくる人物にだ。なぜだか先日からどうにももやもやすることが多くて、少し一緒にいるのが居心地が悪い。かといって、別に嫌というわけではないので邪険にもできない。

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