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第39話 接近 1-4
いつもはさらりと自然に流している髪も、今日はヘアーワックスでも使っているのか、全体的に少しふわりとしている。眼鏡もいつもの細い銀フレームではなく縁がある、いわゆるおしゃれ眼鏡。普段の優等生然とした雰囲気がなく、大学生――下手をすると社会人と言っても絶対に通るだろう。男として少々悔しさを感じるが、僕の容姿では藤堂のルックスにまったく勝ち目がないのは目に見てわかる。
「だとしても、雰囲気違い過ぎるだろう」
小さく唸り少し不服そうにそう言えば、藤堂はそれに反して嬉しそうに頬を緩めた。
「先生はどっちがいいですか?」
「ど、どっちだっていい」
悪戯っぽく目を細める藤堂に思わず声を大にしてしまう。そんなに大声で言うことでもないのだが、なぜかそわそわして気持ちが落ち着かない。そしてそんな落ち着きのない僕を見ながら、藤堂は見ているこっちが恥ずかしくなるくらい優しく微笑んでいる。
「先生はいつもより可愛いですね」
「は?」
突然そう言って笑った藤堂に一瞬あ然とした。
「か、可愛いってなんだ!」
藤堂は言うに事欠いて人のことを可愛いとか言い出す。いままで自分の容姿を見て、他人に可愛いなんて単語は言われたことがない。
「普段も若いですけど……なんだか、いいですね。今日は無理を言ってついて来てよかった」
顎に手を置き、じっとこちらを見て考える仕草をしていた藤堂が、ふいに目を細めにやりと笑った。その表情に思わず目を疑った。
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