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第40話 接近 1-5

「なんだその目は」 「なんだってなんですか?」 「やらしい顔をしてる」  そうだ、笑った藤堂の顔がどうにもいやらしいと言うか、目が、こっち見てる目がやらしい。けれどそう言った僕に対し、藤堂は少し驚いた顔をしてからにこりと微笑んだ。 「健康な男子なんで、好きな人を目の前にしていやらしくなるなって言うほうが無理です」 「お、お前なぁ」  言ってることと表情が全然違い過ぎる。そんな爽やかな笑顔で言い切ることじゃないだろう。 「先生、あんまり俺に綺麗なイメージを持たないでくださいね。幻滅されても嫌なので」  うな垂れた僕にそう言って、藤堂は俯く頭を優しく梳くように撫でる。 「先生の髪質って、ほんとにさらさらしてて触り心地がいいですよね」 「お前は本当に触るの好きだな」  髪に藤堂の指先が触れた瞬間、ほんの少し肩が跳ねた。でも会うたびどこかしら触れてくる藤堂に若干の免疫がついてきたような気がする。いつもより鼓動が速くない。 「触るのも好きですけど」 「ん?」  時折髪先をすくいながら触れる藤堂の手がなんだか気持ちよくて、しばらくそのままでいたら、ふいに藤堂の指先が耳の輪郭をなぞり耳たぶを掴んだ。 「先生が好きなんです」  前言撤回――免疫なんてつきそうにない。 「……っ!」  その感触に大袈裟なほど僕は飛び上がり、弾かれるように顔を上げる。肌がざわめいて鳥肌が立った。

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