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第49話 接近 3-2

 いつも柔らかく笑い、感情的になり得ない雰囲気を醸し出している藤堂だが、時々表情や言葉、態度の端々に違和感を覚えることが多い。多分僕には見せない普段の藤堂がそこにいるんだろう。 「本当か? 実は案外、人のこと言ないくらい無茶するタイプだろ」 「どうでしょう」 「お前は意外と嘘をつくのうまいよな」  含みのある言葉を返す藤堂に呆れた視線を向ければ、ふいに困惑したような表情を浮かべた。 「たとえそうでも、あなたが好きなことだけは嘘じゃないですよ」 「……」  ほんの少し寂しそうに笑った藤堂に、心臓がぎゅっと鷲掴みされたみたいに痛んだ。軽くからかうつもりで言ったけれど、もしかしたら藤堂を傷つけてしまったかもしれない、そんな後悔が残ってしまった。 「先生、ちゃんと全部食べましたね。偉い偉い」 「……そんなこと褒められても嬉しくない」  ぐるぐると色んなことを考えながら手を動かしていたら、いつの間にか僕は最後の一口を完食し終えていた。するとほぼ同時に藤堂も手を止め、空になった皿を見て満足げに笑う。かなりゆっくり食べていたにも関わらず、このタイミング。ちらりと藤堂を見ると彼は小さく首を傾げる。 「なんで、かな。もったいない」  思わず出た僕の小さな独り言に藤堂は首を捻る。

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