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第51話 接近 3-4

「ここから近いですよね。さらに通りが混む前に行きましょうか」  先ほどまでは昼前で人がまばらだったが、駅前のこの通りは休日は人で溢れ返る。その混雑は正直辟易するほどだ。それを想像してわずかに顔が険しくなった僕の顔を覗き込み、藤堂は目を細めて笑った。  その表情の意味を、僕はなんとなくわかり始めてきた。 「いま思ったことは口に出すなよ」  ふいに口を開きかけた藤堂よりも先回りして、その言葉を制する。けれど彼は一瞬目を丸くしてそれを瞬かせる。 「可愛い」 「だから言うなって言ってるだろう!」  予想通りの言葉に僕が眉をひそめるのに対し、藤堂は至極楽しそうに頬を緩める。 「無理です。だって」 「可愛くない!」  なおも言い募ろうとする藤堂を一蹴して、僕はずかずかと大雑把に歩き始めた。足早に歩き出した僕の後ろを、藤堂は少し慌てたように追いかけてくる。 「ちょ、先生」  焦ったような藤堂の声に、してやったりと僕はほくそ笑んだ。  人の波を縫って歩いていく。目的もなくぶらぶらして歩くことがあまり好きではない僕は、のらりくらりと道を歩くのも好きじゃない。  隙間を見つけては目の前の人を追い抜き歩みを進める。だがその歩みを引き止めるように、ぐいと左手を強く掴まれた。突然触れたその手に驚き、肩を跳ね上げれば耳元で小さなため息が聞こえる。 「意外とせっかちですね」  その声に顔を上げると、藤堂が困惑した面持ちでこちらを見ていた。

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