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第56話 接近 4-4
藤堂の様子が突然おかしくなった理由がわからず、困惑しながら僕は首を傾げてしまう。その間も藤堂はため息を吐き、髪をかき上げてふいに視線を落とした。
「藤、ど……」
急に落ち込んだ様子を見せる藤堂に声をかけようとした瞬間。エレベーターの中に階の到着を告げる音が響き渡った。
それに気づき、ゆっくりと開き始めた扉の向こうを見た僕は、その隙間から見えた人物に目を見張った。そしてその向こう側の人物も僕の姿を見て目を丸くする。
「あれ、佐樹ちゃん?」
開ききった扉の向こうで、彼は何度も目を瞬かせ僕の名を呼んだ。
突然目の前に現れたその人物は、僕を目に留めるなり大きく腕を広げ抱きついてきた。エレベーターの内側から引っ張り出すように抱き寄せられ、僕はバランスを崩し彼の腕に収まった。
「久しぶりだね。まさか今日、佐樹ちゃんに会えるとは思わなかったよ」
突然の抱擁に驚いていると何度も背を叩かれる。強く叩かれているわけではないから、痛くはないけれどその勢いに相変わらず戸惑う。
「まあ、僕も渉さんに会うとは思わなかったけど」
休日の展示場に本人がいるとはまさか思わない。
駅前から少し外れたビルにも関わらず、奥の受付でひっきりなしに人が出入りしているのが見て取れる。売れっ子写真家が白昼堂々、会場にいるなんて誰が想像しただろう。
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