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第59話 接近 5-1

 渉さんの反応に気づいて僕も首を傾げようとした瞬間、身体が勢いよく後ろへ引っ張られた。よろめき身体が後ろへ倒れると背中が温かな壁にぶつかる。 「と、藤堂?」  背中に触れたその感触に慌てて振り向けば、藤堂が目の前に立つ渉さんをじっと見ていた。しかしそんな状況よりも、後ろから回された藤堂の腕が強く僕の腰を抱き寄せ離そうとしないことに慌ててしまう。 「ちょ、藤……」  背中に感じる藤堂の体温に自然と心拍数が上がっていく。このままでは動揺を隠しきれない。いや、そもそもなぜこんなにも動揺しているのか。そんな自分がわからなくて、さらに頭がパニックを起こした。けれど再び藤堂の名を呼ぼうとしたら、ますます腕に力がこもりそれを遮られる。そしてそれに比例して藤堂の顔が険しくなっていく。  もしかして怒ってるのか? 藤堂の表情はもはや不機嫌どころではない。睨みつけるように渉さんを見つめる、その表情に戸惑いながら僕は藤堂と渉さんを見比べた。 「佐樹ちゃん。このイケメンくんは誰?」  驚きの表情のまま藤堂を見ていた渉さんは、ふいに僕に視線を落とし首を傾げてきた。 「あ、彼は……藤堂はうちの学校の」

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