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第60話 接近 5-2
生徒だ、と言う前に渉さんがぽかんと口を開ける。
「え? 佐樹ちゃんって高校の先生だよね。この人も先生なの?」
「違う、藤堂はうちの生徒」
「学生? 高校生?」
渉さんは大きく瞬きを繰り返し何度も僕と藤堂を見比べる。けれど彼の驚きはよくわかる気がする。僕だって初めて会ったら同じ反応をしそうだ。しかしそう思い、苦笑いを浮かべていた僕の心とは裏腹に、渉さんの口から出た言葉は予想もしない単語だった。
「ああ、そっかよかった。佐樹ちゃんの彼氏ってわけじゃないんだ」
「は?」
一人納得したように笑った渉さんを僕はあ然として見つめた。なにかいま聞き間違いをしたような気がするのだが――。
「あいつが佐樹ちゃんに手ぇ出したら殺すなんて言うから、ずっと我慢してたのにさ。知らないうちに、誰かのものになってたのかと思って焦っちゃった」
聞き間違いではなかった。
そして背後で微かに舌打ちが聞こえたかと思えば、寒気がするほど黒いオーラが立ち昇り始め、恐ろしくて振り向けない。時々見せる藤堂のこの負のオーラは、普段穏やかな分だけ、藤堂の本気が見えた気がして正直言って怖い。
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