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第62話 接近 5-4
それは視線をそらすことさえ許されないような強い眼差しで、思わず心臓が跳ねる。次第にそれに捕らわれた気分に陥り、頬は熱くなり、鼓動もさらに早くなる。
「うっわあ、かなりジェラシー」
僕らの様子を眺めていた渉さんが、台詞を棒読みするようにぽつりと呟いた。その言葉に慌ててそちらへ視線を向けてみれば、珍しいほどの無表情で渉さんは目を細めている。
けれど僕の視線に気づき彼はまたいつものように笑う。
「ねぇ、佐樹ちゃん。これからはそいつだけじゃなくて俺のことも意識してよ」
「は?」
正直言っている意味がわからない。思いっきり訝しげに首を傾げると、渉さんは不満そうに口を尖らせる。否、わかりたくないのに渉さんは大きくため息をついて、僕に指先を突きつける。
「だ、か、ら、俺も佐樹ちゃん好きだから、と言うかむしろ本気で愛してるから、そういう相手として意識してよ」
呆然として見ている僕の前で身体を屈め、渉さんは顔を寄せてくる。言葉の意味を飲み込めずに固まっていると、さらに彼の顔が近づいてきた。けれど――。
「お断りします」
「え?」
突然はっきりとした拒絶の言葉が背後から聞こえ、目と鼻の先まで近づいていた渉さんに僕が気づくのと同時か、あっという間に身体を押され僕は大きな背中の後ろに追いやられた。
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