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第63話 接近 5-5

「藤堂?」  その背中が藤堂のものであると認識するまでに数秒要した。 「いやいや、それはずるいよね」  藤堂の向こうで渉さんは不服そうな声を上げる。 「いつから佐樹ちゃんにくっついてるのか知らないけど。佐樹ちゃんのうっかりに便乗してない?」 「うっかりってなんだ!」  あまりの言いように思わず突っ込まずにいられない。確かにちょっと藤堂の勢いに押されてる、そんな気はしているけど。しかし渉さんは僕の話を聞いていないようで、じっと藤堂のほうを見ている。 「君のそれはある種、つり橋効果だよね。学校っていう小さい箱の中で、突然生徒に告白なんてされたらドキドキしちゃうもんね。しかも教師と生徒っていうシチュエーションのほかに男同士っていう禁断な感じ? 君はムカつくくらいに男前だしさ、ちょっと興奮しちゃうよねぇ」  肩をすくめ藤堂を見つめる渉さんの言葉に、目の前の肩がびくりと跳ねるように動く。その反応を渉さんは見逃さなかった。ふいに満足げな笑みを浮かべて、藤堂の背後にいる僕を覗き込んだ。 「佐樹ちゃん、よく考えてね。俺は本気だから、いつでも連絡して」  片目をつむり微笑んだ渉さんは、僕のシャツのポケットに名刺を差し込んだ。瞬きを忘れて立ちすくんでいると、背後でエレベーターの扉が開く音が聞こえる。

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