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第64話 接近 5-6
通り過ぎる間際、肩を叩かれ我に返れば、渉さんは手を振りながら扉の向こうに姿を消した。階下へ移動していく数字の光を目で追いながら、僕はやっと現実に戻った。
「先生?」
不安そうな藤堂の声に僕はゆっくりと振り返る。でも頭が真っ白でなにも気の利いた言葉が浮かばない。
「悪い、ちょっと落ち着くまで待ってくれ」
藤堂はなにかを言いたそうな顔をしていたが、いまは正直頭がついていかない。目端に留まったテーブルと椅子が置かれた休憩スペースまで歩いていくと、僕は椅子を引きそこに腰を下ろした。急に疲れが押し寄せて肩が落ちる。
「疲れた」
とにかく本当に疲れた。
ほんの十分、十五分程度の出来事のはずなのに、すごく神経がすり減った気がする。長いため息が身体中の空気を外へと押し出した。
「なんで渉さんまで」
彼の言葉を思い出し、なぜか頭が痛くなってきた。自分の許容範囲以上のことが起きているからだろうか。前々からスキンシップの激しい人だと思っていたが、案外誰に対してもそうだったから気にも留めていなかった。
なにがどう違ったんだ? あの人の好きがよくわからない。からかわれているのだろうか。
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