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第67話 接近 6-3

 藤堂は驚きに目を丸くしているが、僕はそれは気にせず彼の身体に頭を預けた。触れたい、そう思うのはなぜだろう。でもいまなら、なんとなく普段の藤堂の気持ちがわかるような気もした。  ああ、そうか――きっと、安心したいんだ。 「好きだとか愛してるだとか、なんかよくわからなくなってきた。藤堂はさ、なにがよくて僕を好きだなんて思ったんだ?」 「……」  僕の問いかけに、一瞬藤堂が息を飲んだ気配を感じた。いつもなら迷いなく僕を抱き寄せる藤堂の手は、だらりと力なく下を向いたままだ。しばらく頭を預けたまま僕が目を閉じていると、わずかに藤堂の身体が身じろぐ。 「わからないって言ったら怒りますか」  沈黙を破り呟いた藤堂の言葉に耳を疑う。 「は?」  僕は藤堂が発した言葉を理解できず、顔を上げて眉を寄せた。けれど至極真面目な顔をして彼はこちらを見ている。 「いまは、お人好しで少し騙されやすかったり、真面目な癖に大雑把で面倒くさがりだったり、誰よりも生徒に対してまっすぐで優しかったり、そんなところが可愛いと思うし、素敵だと思うけど。自分でもわからないんです。先生を、あなたを初めて好きだと思った瞬間……それがなぜなのかわからなかった。気になり始めてからあなたを知りたいと思った」  言葉を紡ぐたびに藤堂の声が小さくなっていく。いつもはまっすぐにこちらを見る目が伏せられて、その目はこちらを見ずにじっと床を見つめる。

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