68 / 1096

第68話 接近 6-4

  「確かに、いままでほとんど話をしたことないですし、気の迷いだと言われても仕方がないかも知れません。でも――俺があなたを好きだと思う気持ちに、理由は必要ですか?」  ただ気持ちを知りたかっただけなのに、藤堂は傷ついた顔をした。普段はこっちが慌てふためいてしまうほどの余裕を見せる彼が、いまにも折れてしまいそうで、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。  気づくといつも自分は彼にあんな表情をさせてしまう。彼は自分といると不安そうで、寂しそうで、いまにも泣きそうな顔をする。なぜそんな風にいつも不安そうな顔をするんだろうかと、そう思うけれどその理由は見つからなくて、どうしたらいいのかわからなくなる。そしてその表情に自分はひどく弱いのだ。藤堂の顔を思い出すたびに胸が痛い。 「おーい、佐樹? 戻って来い」  突然耳元で大きな音が響く。  その音にはっとして顔を上げれば、両手を合わせこちらを見ている見慣れた顔があった。それに気がつくと、途端に周りの騒がしさが耳に届き始めた。ざわざわと人の話し声がするここは、店は古いが料理が美味い、行きつけの馴染みある居酒屋だ。

ともだちにシェアしよう!