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第69話 接近 6-5

「あ、悪い明良、なんだっけ? 聞いてなかった」 「ったく、人のこと呼びつけといてなんだ……って、なんとなく事情は渉から聞いたけどな」  大ジョッキになみなみと注がれたビールを一気に飲み干し、明良は大袈裟に息を吐いてそれをテーブルに戻した。  九条明良――彼は、僕の中学からの腐れ縁。親友と呼べる友達であり、渉さんを自分に紹介した人物でもある。 「あの野郎、絶対に佐樹は駄目だって言ったのに」  元からキツイ印象の目を細め、ここにはいない渉さんへ明良は悪態をつく。愚痴愚痴と文句を呟きながら目の前の焼き鳥を咥え、引き抜いた串を串入れに放り込み明良は手を上げた。 「おーい、こっちに生!」  顔なじみの店員に明良が手を振ると威勢のいい返事が返ってくる。 「もともと明良と同じ類だったんだな、渉さんって」  明良の言葉からようやく理解ができてきた気がする。眉間を押さえ軽く指先で揉むと僕は大きく息を吐いた。  この親友は昔から男にしか興味を示さない、いわゆる同性愛者だ。彼のおかげでそれに対する偏見はまったくないのだが、まさか自分が渦中に置かれるとは夢にも思わない。 「あ、そうそう。なんせ出会いがRabbitだからな」  ビールを持ってきた店員に片手を上げて、受け取ったそれを口にしながら明良がこちらを向く。

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