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第77話 接近 8-1

 いや、でもあれだけオープンなんだから、気づかなかった僕はやはり相当鈍かったのかもしれない。そういえば女の人を口説いているところは見たことがない。 「確かになぁ、あいつの場合は、すぐ気に入れば口説く悪い癖があるから、判断は微妙だけどな。それでもいままではノンケは絶対避けてたんだぜ。今回もお前には絶対言わないって言うから、俺があいだに入るかたちでお友達の付き合いは続けさせてやってたんだぞ」 「う、そんなこと言われても」  そんな渉さんがいかに自分に対して本気かを聞かされても、非常に困惑するばかりで、僕は視線を泳がせ俯いた。 「まあ、あいつのことは気にするな」 「気にするなと言われても」  今度また顔を合わせた時、どんな顔をして会ったらいいかわからない。できればしばらく会いたくない気もするけれど、それってかなりずるいだろうか。 「好きとか、そういうのってなんだ」 「お、極論だな」  僕の言葉に明良は目を丸くして笑う。  好きだという気持ちがわからない。愛してるってどういうこと?  いまの僕は、そんな気持ちを随分前にどこかに置き忘れてきてしまったようで、ぴんと来ないと言うか、よくわからずにいた。 「極論、か」  同じ問いかけをしたら藤堂はひどく悲しそうな顔をした。その意味がいまだにわからない自分は、やはり明良の言う通り枯れてるのか。

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