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第80話 接近 8-4
「ものは試しだろ。まあ、正直止めといたほうがいいけど、あいつ手ぇ早いしなぁ。あ、でも佐樹だったら手は出さないかもな」
「適当なこと言うなよ」
明良の悪ふざけのような物言いに肩を落とし、僕は重たい頭を抑えた。そんな僕を横目で見ながら明良は再び手を上げ、空になったジョッキを店員に押し付けた。
「例えばさ、彼氏くん」
「藤堂?」
「そ、藤堂だっけ。その彼氏より先に渉がお前に告白してても、いまと変わんない気がすんだよな」
「変わらないって?」
明良の言っている意味がさっぱりわからない。けれどそんな僕に対し、しょうがないなと小さく呟いて明良は僕に向き直る。
「あんまり難しく考えんな。好きとか愛してるってのは理屈じゃねぇのよ。つうか、お前いま頭でっかちになってるだろ。お前がほんとに気にしてんのそこじゃないんだよ」
「気にしてる?」
「そ、気にしてる。めちゃくちゃな」
首を捻る僕を指差し明良はじっとこちらを見る。けれど彼の言うことがやはりいまいちよくわからない。僕がなにを気にしているのか、明良にわかってなんで自分がわからないんだろう。と言うかほんとに僕はなにを悩んでいるんだ。
好きとか愛してるとか、そんな意味を今更知りたいわけじゃない。――ほんとに知りたいのは。
「わからないって言われたんだ。なんで好きになったのかって聞いたら」
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