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第81話 接近 8-5
「ん、彼氏くんに?」
主語のない僕の言葉に一瞬首を傾げ、明良はああ、と思い出したように呟く。そして頷いた僕を見て小さく唸り、髪を軽くかき乱した。
「なるほどな、それがショックだったんだ佐樹は」
「別に、ショックだったわけじゃ」
明良の言葉に口ごもるとふいに目を細められた。心の内を見透かすような視線がひどく居心地が悪い。言葉にして言われてみるとわかる。僕は藤堂の気持ちがわからなくてショックを受けたのだ。
「急にそんなこと思ったのは、渉につり橋効果だって言われて不安になったんじゃないの?」
「どういう意味だ」
首を傾げればぴくりと明良のこめかみが震える。
「はあーっ! 相変わらず自分のことに鈍いな佐樹は」
「な、なんだよいきなり」
意味がわからず問い返せば、明良は悶えながらテーブルに突っ伏した。そして頭を抱えジタバタとテーブルを叩きながら一人でぶつぶつなにかを言っている。
「明良?」
途端に静かになった明良に困惑しながら声をかけると、勢いよく身体を起こして目の前に指先を突きつけられた。
「佐樹は自分がそいつのことを好きかどうかで悩んでるんじゃない。そいつがほんとに自分のことを好きなのかどうかで悩んでんの!」
「え?」
「ここまで言ってやってんだから気づけ馬鹿!」
息継ぎもせず、まくし立てるように喋った明良は、ゼイゼイと肩で息をしながら僕の頭を叩いた。しかし僕は叩かれたことよりも明良の言葉に驚き、目を見開いたまま固まってしまった。
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