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第87話 すれ違い 1-1

 鳴り響く予鈴を聞きながら教室の戸を引けば、ふいに室内の視線がこちらへ集まった。早過ぎる担任の姿を想像していたらしい彼らは、俺の姿を見るなり一瞬だけ驚いた顔をしたが、いつものように口々に挨拶をし、また自分たちの会話に戻って行った。  そんな中で一際早く動き出して、こちらへ向かって来た弥彦に俺は片手を上げる。 「優哉、休むんじゃなかったの?」 「ん、ああ」  驚きに目を丸くしている弥彦に曖昧に返事をすると、急に額に手を当てられる。自分の額にも同じように手を置き、一人唸るその様子に思わず笑ってしまう。 「別に風邪じゃない。ちょっと朝が辛かっただけで」 「そっか、だったらいいけど。でも、最近は低血圧とかそんなにひどくなかったんだし、気をつけなよ」  心配そうに覗き込んでくる幼馴染みの肩に軽く手を置き、俺は思わず苦笑いを浮かべた。 「ああ、気をつける」  とはいえ、頭や身体が重苦しくて、目覚めた瞬間どうしようもなく気分が悪かった理由は、いつもの低血圧などではないのは明らかで。いまの自分にはたった一つしか、その原因に心当たりはなかった。  好きの意味がわからなくなった――正直あの一言で一瞬、目の前が真っ暗になった気さえした。多分あれは自分に向けられたものではないのだろうと思う。いや、そう思い込みたいだけなのかもしれないが、ひどく胸が苦しくて堪らなくなった。

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