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第88話 すれ違い 1-2

 まさかあの程度のことで、自分がこんなにもダメージを受けるとは思いもしなかった。いままでこんな思いをしたことは一度もない。  嫌われたくない。  離れたくない。  そう思うほど逃げ出したくなり、珍しく向こうから触れてくれたのに、それさえも怖くなった。そしてそれほどまでにあの人が、自分にとって特別なのだと改めて思い知った。 「大丈夫? やっぱり顔色よくないけど」  立ちすくんでいた俺の目の前で手をひらひらと振りながら、弥彦は眉間にしわを寄せた。 「心配ない」  そう言って肩をすくめると、俺は教室の一番奥にある自分の席へと足を向けた。 「そういえばさ」 「ん?」  前の席に座った弥彦に首を傾げれば、なぜか少し困ったような表情を浮かべる。そして訝しげにその顔を見ていると、突然机の周りをクラスメイトに囲まれた。 「藤堂、創立祭の実行委員やってくんない」 「名前だけでいいから」 「ちょっと顔を出してくれるだけでいいから」  突然囲まれ、矢継ぎ早に三人同時に話し始めた彼らに思わず首を傾げれば、急に拝み倒すように手のひらを合わせ頭を下げられる。  いつも賑やかな三人組。それはなんとなくある彼らの印象。一人に覚えはあるが、ほかの二人はまだあまり記憶にない。そんな相手になぜ拝まれなくてはならないのか。 「話が見えないんだけど。というより、俺はそういうのは絶対やらないっていつも言ってるよな?」  基本的にバイトが優先なので、部活はおろか役員関係もやらないと、予め担任にも言っておいたはずだが。眉をひそめて見れば、三人はいまにも土下座しそうな勢いだ。

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