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第92話 すれ違い 2-1

 ざわざわとした賑やかな雰囲気の中、ぐるりと辺りを見回し教室の奥を覗き込む。 「あれ、いない」  確かめるように何度も視線を動かしてみても、目的の人物は見当たらなかった。  まだ昼休みになったばかりなのでいるかと思ったのだが、定位置である窓際、一番後ろの席にも教室の中にも彼はいない。 「もう出たのか?」  せっかく意を決して来たのに肩透かしを食らった気分だ。しかしいないものは仕方がないと諦めて、ため息をつきつつ踵を返した。けれど途端にあるはずのない立ちはだかる大きな壁にぶつかってしまう。 「西やん、どしたの? こんな時間に」 「び、びっくりした。三島か、悪い」  廊下の真ん中でぶつかったそれを見上げれば、三島が不思議そうに僕を見下ろしていた。  相変わらず三島は背が高い。藤堂も自分と十センチ以上の身長差があるが、三島はそれより多分もう少し高い。若干首の後ろが痛くなる。 「もしかして優哉に用事?」 「え? ああ、まあ」  ズバリと言い当て小さく首を傾げる三島に、思わず僕は苦笑いを浮かべてしまう。すると三島はふいに困ったように眉を寄せた。 「早退でもしたのか?」  その表情に朝の様子が思い出されたが、三島はゆっくりと顔を左右に振った。

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