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第95話 すれ違い 2-4
「雨降りの日は使えないけど、今日みたいな晴れの日は気持ちがいいよ」
スタスタと歩く三島について細い道を歩けば、急に目の前がまた拓けた。辺りを見回すと、テーブルと椅子がいくつか点在している。
「まだ知らない人が多いんだけど、穴場でしょ」
そこで食事をしている生徒の姿を何人か見受け、あ然とした。比較的長くここに勤めているほうだが、この場所は初めて知った。
「こんなところあったのか」
三島によくよく話を聞いてみると、ここは去年できたらしい。食堂などめったに利用しないので、職員会議で上がった話も頭に入らなかったのかもしれない。
「なに食べる?」
「え?」
恐らく厨房の裏側に当たるのだろう。小窓に置かれた今日のメニューをひらひらとさせて三島は首を傾げる。
「なんでもいい」
「女の子にそんなこと言ったら嫌われるよ」
僕の答えに小さく笑って、じゃあA定食二つ、と三島は窓の向こうに声をかけた。
確かに思わずそう答えて嫌そうな顔をされたことが何度もある。女心は難しい。自分もなんでもいいと言うくせに、なんでもよくはないんだよな。
「優哉は優しい?」
「は?」
手近の椅子に腰かけた途端、三島はにこりと笑みを浮かべて僕の顔をじっと見る。
「え?」
なぜここで三島の口から藤堂の名前が出てくるのかがわからない。
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