105 / 1096
第105話 すれ違い 4-4
いや、満足していなかったんだ。だからこそ、いまこうして少しでも近づけたことに、自分は浮かれてしまっているんだ。
「まあ、いい人なのはわかるけどなぁ。でもそこまでそそられるようなタイプじゃないし、どの辺がいいんだ?」
耳打ちするように顔を寄せて話す峰岸の顔を押しのけ、不快な表情を浮かべると、それに反して後ろから覆い被さるように抱きつかれた。
室内に黄色い悲鳴が響き渡る。
「遊んでないで仕事しろ」
「たまには俺と遊ぼうぜ」
明らかに周りの反応を楽しんでいる様子の峰岸にため息が出る。自分が楽しむ為に他人を巻き込むのも峰岸の悪い癖だ。誰を巻き込もうが構わないが、こちらに火の粉がかかる真似はやめて欲しい。
「やっぱり少し性格が円くなったな。前なら今頃、俺は床に沈んでたぞ」
「そんなに沈めて欲しければ沈めてやるぞ。海にでも」
面白くなさそうな表情を浮かべる峰岸を一瞥して、再びため息をつくと苛々していた感情が冷めていく。
「もう冷めたのか」
「お前が喜ぶことをしてやるのは馬鹿らしい」
不服そうに呟く峰岸に肩をすくめれば、なにやら思案するように小さく唸る。
「……そうか、じゃあセンセで遊ぶとするか」
そう言って笑うと、峰岸は俺の首に巻きつけた腕に軽く力を込めて、無遠慮に人の横顔に口づけた。
ともだちにシェアしよう!