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第109話 すれ違い 5-4
藤堂でも怒鳴ることがあるんだなと、変に感心している僕の前で、三島はほんの少し携帯電話を耳から遠ざけた。
「うん、食堂のカフェテラス。そう、え? 西やん、まだいるってば」
そう三島が返事をした途端、こちらでもわかるほど一方的にブツリと通話が切断された。
「なんかわかんないけど、すごく機嫌悪いみたい。いまこっちに来るって」
「ああ」
携帯電話を下ろしながらこちらを見る三島は、なんとも言いがたい複雑な表情で苦笑いを浮かべていた。
しかし僕は藤堂のそんな一面に遭遇し、戸惑いながらもどこか楽しんでいた。二人でいる時には恐らく、見せることのない一面な気がしたからなのか。
「普段って結構起伏が激しかったりするのか」
僕には見せない藤堂のことが知りたくなった。
「うーん、そうだなぁ。そんなに普段からってわけじゃないけど。意外と短気かも」
「へぇ」
自分とは歳も離れているし、一応こちらも教師だ。藤堂がいつも言葉を選んで話しているのはなんとなくわかっていた。以前、片平と話をしていた時は少し言葉が砕けていて、すごく違和感を覚えた。自分と一緒にいる時の藤堂が作り物だとは思ってはいないが、正直言えばその時のそれはあまり面白くはなかった。
「あれからしばらく苛々したしなぁ」
「なに?」
小さな独り言に首を傾げた三島になんでもないと首を振る。それでもなぜかこうしていまは、普段の藤堂を垣間見られるのが楽しくて仕方ない。
一体この違いはなんなのだろうか?
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