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第112話 すれ違い 6-2

「まあ、へこむくらい意識したことは褒めてあげる」 「なんでそんなに上から目線なんだよ」  片平の態度に思わず口を曲げる。すると肩をすくめ鼻で笑われた。  相変わらず片平は可愛らしい顔立ちと反して、中身は真逆だ。人のことを探るのが得意で、人をからかうのもお手の物。でも嫌だ奴だなとは思わないのは、不思議なところだ。無邪気さが垣間見えるからだろうか。いや、時々こちらが戸惑い冷や汗をかくような、ひどく悪い表情を見せるけれど。 「西岡先生は先生としては尊敬できるけど、一個人としては……手のかかる子供みたい」 「お前なぁ」 「でも、そういうとこは可愛いけどね」 「……可愛くない」  その単語はいつまで経っても言われ慣れない。むず痒さを感じて顔を歪めた僕に対し、片平は笑い堪えるように口元に手を当てて肩を震わす。 「帰り寄って見たら?」 「帰り?」 「今日も優哉バイトでしょ」 「ああ、そうか」 「受け身でいるばかりだとチャンスを逃がすわよ」  気のない僕の返事に片平は小さく息をつく。彼女の言わんとしていることはわかるのだが、どうにも気が引ける。  タイミングというものなのだろうか。どうやって藤堂に話しかけたらいいのか、どうやってこのあいだのことを切り出したらいいのか、わからなくて躊躇ってしまうのだ。いつまでもこんなことを考えていては時間ばかりが過ぎて行くのはわかっている。それなのに動き出すことができない。

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