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第113話 すれ違い 6-3
「黙って待ってるのが嫌ならメールでも電話でもしてみればいいのに」
「うーん」
片平の言葉に対しはっきりとしない返事で濁せば、突然指先で鼻を摘まれた。
「なっ、なにす」
慌てて片平の手を振り払うと不機嫌そうに眉を寄せられる。
「なにを悩んでるわけ? 優哉のこと好きって自覚したんでしょ」
「いや、それは」
突然の問いかけに肩が無意識に跳ね上がり、視線が左右に泳いでしまった。
「それは、なに?」
口ごもってぶつぶつと、言い訳めいた言葉を口先で呟く僕に片平の顔が険しくなる。でもどうしても返す言葉が見つからなくて、うろたえたまま落ち着きなく両手を握り、気持ちを紛らわすように忙しなく指先を動かしてしまう。
「だから、その」
本当に自覚があるわけじゃない。確かに明良に自分は藤堂が好きなんだと言われたけど、それが本当にそうなのかまだ自覚がない。数日会えなくて落ち着かない気持ちでいるのは、最近毎日のように顔を合わせていたから、なんとなく落ち着かないだけのような気もする。
だから会えばわかるかもしれないと思って、会えないことに焦っているだけなのかもしれない。
「もう、はっきりしないな! 先生、いま一体いくつ?」
「う、三十二、だけど」
片平の勢いに押されてなぜか小声になってしまう。なんだか子供の頃に廊下に立たされ怒られていた時のことを思い出す。いや、いまは椅子に座ってはいるが。
「それだけ生きててなんでわかんないの! 優哉のどこが嫌なの」
「別に嫌じゃ」
急に間合いを詰め寄られて思わず逃げ腰になる。なぜここまで追いつめられているのかがわからない。
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