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第117話 すれ違い 7-3
「……先生って最近ここから見てるでしょ」
脱力して肩を落とした僕を一瞥して、片平は急に窓に視線を移した。
「なにを?」
片平が示すものがわからず首を傾げれば、彼女は指さすように腕を上げた。
「校門?」
「そ、優哉が来るの見てるでしょ」
「え?」
思わぬ言葉に目を瞬かせると、ほんと鈍い人ねと小さく呟かれる。
「優哉に聞いたの。なんで笑うのかって。そしたら先生がこっちを見て笑うからだって」
「いや、けどあれは」
確かに僕はここから生徒が登校してくる姿を眺めていることがある。そして片平が言うように、藤堂はなぜかタイミングよく必ずこちらを見上げて笑うのだ。
けれど――校門からここはいささか遠く、そんなにはっきりとわかるはずがない。
「自分を見ているから、わかるんだって」
「そんなわけじゃ」
反射的に声が大きくなり、急に顔が熱くなる。確かに藤堂たちの姿はよく見かけた。あの日以来、見かけなかった日はない。不思議と目について、帰り際ここへ寄って帰る藤堂の後ろ姿を見送ることもあった。
でもそれを意図的にしていたつもりはない。あくまでもなに気なく目に入るというだけで、わざわざ待ち構えていたつもりはない。
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