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第120話 すれ違い 8-1
驚いて身体を起こしたのと同時か、カシャリと音がした。
「え?」
視線の先で携帯電話を構えているその姿に、思わず目を疑った。そして一見しただけでは誤解を与えかねないであろう、僕と片平の状況にめまいがした。
「センセ、密室でいやらしい」
「どこが密室だ」
戸口にもたれ、わざとらしく含み笑いをしながら携帯電話をいじるその様子に、ため息しか出てこない。
「峰岸」
「残念。もう保存した」
顔をしかめた僕に、峰岸は目を細めて至極楽しそうな笑みを浮かべる。しかし、その反面――。
「なんであんたがこんなところにいるのよ!」
峰岸の姿を認めた途端、ひどく機嫌を損なった様子の片平は、不快を露わに顔を歪めた。女子で峰岸をここまで毛嫌いする子は初めて見たような気がする。確かに入れあげたり熱を上げたりしてない子も中にはもちろんいるが、それでも峰岸の目を惹くほどの容姿だ、好きか嫌いかと聞かれて、嫌いだという女子の方が珍しい。
「お邪魔して悪かったな、あずみちゃん」
「やめてよキモい。あんたに呼ばれると鳥肌が立つから!」
こちらへゆっくりと歩いてくる峰岸を追い払うように手を振りながら、片平はわずかに後退し僕の横に並ぶ。片平の峰岸嫌いは相当のようだ。
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