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第123話 すれ違い 8-4

 いささか遠い目をすれば峰岸はゆるりと口の端を持ち上げ、苦笑いを浮かべる。そう、思わず苦笑したくなるくらいあの人は行動を予測できない先生なのだ。 「仕事もできていい先生なんだけどな」 「いまフリーなのは西岡センセくらいなんだよ。戻ってくるまでいいだろ?」 「うーん、そう言われるとさすがに弱いな」  こういった行事ごとは捕まらないよう、わざと気配を消し逃げていたので、見つかると正直逃げ場がない。 「二、三週間くらいならいいだろ?」 「うーん」  それでもなお渋る僕に、峰岸はふと目を細めて身を屈めた。身体を寄せるように背もたれに手をつかれると、ぎしりとバネが軋む鈍い音がする。 「じゃあセンセ、いまここで俺とキスするのと顧問をやるのとどっちがいい?」 「あのな、それは脅迫って言うんだよ。そんなの決まってるだろ」  呆れたように息をつけば、なぜか少し意外そうに峰岸は首を傾げる。 「なんだ?」 「あんた意外と危機管理能力がないな」 「は?」  言っている意味がわからず訝しげに見れば、峰岸はふいに顔を傾けそれを近づけて来た。さすがにここまでくれば、鈍い自分でもわかる。 「ちょ、ちょっと待て」  慌てて身体を捩り顔を背けると、無防備にさらけ出された首筋に噛みつかれた。 「うわあ!」 「なんつう色気のない声を出すんだよ」  わざとらしくリップ音を立てながら唇を離した峰岸が、納得がいかないような顔で僕を見下ろす。

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