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第124話 すれ違い 8-5

「うるさい、色気なんか出てたまるか」  ちりちりとする首筋を押さえて文句を言えば、不満そうだった峰岸の顔が微かに緩む。 「なるほどね。反応が可愛くて苛め甲斐があるんだな」 「なんでお前に苛められないといけないんだ」  一人納得したように頷き、人の顔を覗き込む峰岸を押しのけた。しかし距離を取ろうとしたその行動を阻むように、膝を割られ身体をそのあいだに置かれてしまう。 「なんでそんなに近い」 「苛めたいから」  慌てる僕を尻目に峰岸は至極機嫌よさげに目を細める。さらに椅子の隙間に片膝をつかれ、身を屈められれば一気に峰岸との距離が狭まってしまう。そしてこうなると、どんなに精一杯避けようとしても逃げ場はなく、仰け反るように身体が浮いてしまう。この体勢は逆に不利だ。 「センセ、誘ってんの?」  揶揄するようにゆるりと口の端を上げ、峰岸は背中にできた隙間に容易く腕を差し込んだ。 「ふざけるな離せ」 「離さない。センセこれから楽しいことして遊ぼうか」 「誰が遊ぶか!」  無駄に色気のある低い峰岸の声に思わず肩が跳ね上がる。 「お、大人をからかうな」 「からかってない。可愛がってるだろ?」  背中を撫でていた手がいつの間にか腰へ回り、強引に抱き寄せられた。顎を掴まれてそらした顔を上向きにさせられると、一気に血の気が引いていく。

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