124 / 1096
第124話 すれ違い 8-5
「うるさい、色気なんか出てたまるか」
ちりちりとする首筋を押さえて文句を言えば、不満そうだった峰岸の顔が微かに緩む。
「なるほどね。反応が可愛くて苛め甲斐があるんだな」
「なんでお前に苛められないといけないんだ」
一人納得したように頷き、人の顔を覗き込む峰岸を押しのけた。しかし距離を取ろうとしたその行動を阻むように、膝を割られ身体をそのあいだに置かれてしまう。
「なんでそんなに近い」
「苛めたいから」
慌てる僕を尻目に峰岸は至極機嫌よさげに目を細める。さらに椅子の隙間に片膝をつかれ、身を屈められれば一気に峰岸との距離が狭まってしまう。そしてこうなると、どんなに精一杯避けようとしても逃げ場はなく、仰け反るように身体が浮いてしまう。この体勢は逆に不利だ。
「センセ、誘ってんの?」
揶揄するようにゆるりと口の端を上げ、峰岸は背中にできた隙間に容易く腕を差し込んだ。
「ふざけるな離せ」
「離さない。センセこれから楽しいことして遊ぼうか」
「誰が遊ぶか!」
無駄に色気のある低い峰岸の声に思わず肩が跳ね上がる。
「お、大人をからかうな」
「からかってない。可愛がってるだろ?」
背中を撫でていた手がいつの間にか腰へ回り、強引に抱き寄せられた。顎を掴まれてそらした顔を上向きにさせられると、一気に血の気が引いていく。
ともだちにシェアしよう!