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第125話 すれ違い 9-1
ジタバタともがく僕の身体を押さえながら、楽しそうに笑う峰岸はさながら肉食獣だ。だが、こんなところで弱肉強食を実感している場合ではない。どうにかしてこの状況から逃げ出さないといけないと、僕の中で警戒のサイレンのようなものが鳴り響いている。
「峰岸、どけ」
「嫌だ」
「嫌なのはこっちだ!」
そんな甘ったるい表情で見下ろされても、全然嬉しくない。
必死で腕を突っ張って離れようとするが、峰岸の身体つきがしっかりしているせいかまったくびくともしない。いや、自分が非力なだけなのかもしれないが、あまりの体格差に血の気が引いた。
「センセ、あんまり抵抗すると加虐心を煽るよ」
「無抵抗でいいようにされてたまるか」
こっちにだって少なくとも男のプライドがある。こんなとこでいいように、もてあそばれてたまるか。
「はは、センセ可愛い」
「可愛くない!」
あまりにも無邪気に笑う峰岸の顔を見ると思わず脱力してしまいそうだ。しかしここで力が抜けたら色んなことを後悔しそうで気が抜けない。
峰岸が見せたこの無邪気さは幼い子供が持つそれと一緒で、時に残酷だ。
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