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第129話 すれ違い 9-5
大体キスを迫られるだけでも戦々恐々なのに、背を抱きしめる手が力強過ぎて、逃げ出せないいまの状況が、もう耐えきれない。
「まあな、変に乗り気になられても興ざめだしな。これはこれで楽しい、けど」
「やめろ」
ふいに目元を生温く濡れた感触が過ぎる。一瞬目を閉じてしまい、それがなんなのかわからなかったが、再び同じように伝い落ちて肩が震えた。
「泣かせるつもりはなかったんだけどな。センセ、泣くなよ」
「泣いてない」
嘘つけと小さく呟かれ目尻に浮かんだものを舐めとられる。羞恥より身体が震えて仕方ない。
「お前無駄に迫力あり過ぎるんだよ、畜生」
「悪かったよ」
腕で顔を覆い横を向けば、微かに息をつかれて身体の上にあった重みが離れていく。ふいに身体の力が抜ける。
「峰岸、お前なにやってんだよ!」
「……っ」
突然室内に響いた戸が開く音と大きな声に身体が跳ねた。慌てて身体を持ち上げて見れば、戸口に立つ三島の姿があった。
「王子様じゃなくてお前が来たんだ。まあ、この時間じゃもういないか」
さして驚いた様子もなくそう言って峰岸が肩をすくめると、足早に彼に近寄った三島が目の前で立ち止まった。そして振り上げた三島の手が躊躇いなく峰岸の頬を打った。
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