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第134話 すれ違い 10-5
なぜだろう。いま無性に藤堂に会いたい。会って、いつもみたいに笑って、髪を撫でて、抱きしめて欲しい。
「なんか寂しいな」
気づかない振りをしていたぽっかり空いた胸の穴に、冷たい風が吹き込むような切なさだ。そこになにもない、それが苦しくて寂しくてたまらない。
「うん、寂しいよね。好きな人に会えないのは」
「好き、か。やっぱり好きなのかな」
結局、あの日すれ違ったままなんの解決もなくて。会えないと焦れば焦るほど距離が離れて行く気がした。それなのに――。
「なんでこんなにはっきりしないだろうな自分は」
あれだけ片平に指摘されて、あれだけ意識していることを突きつけられて、自分でももう気づいてるはずなのに、それでも認めようとはしない。この強情さはなんだろう。
「みんな急かし過ぎなんだよ。もっとゆっくり実感してもいいと思う」
「三島くらいだよ、そんな風に言うのは」
苦笑した僕に少し困ったように笑って、三島はゆっくりと歩き出す。
「だって西やんは最初から優哉のこと好きでしょ」
「え?」
戸を引きながら、にこりと笑みを浮かべて振り返った三島に思わず動きが止まる。
「だから傍にいないのが寂しくて仕方ないんでしょ。もっとゆっくり恋愛しても罰は当たらないよ」
あ然としたまま見つめる僕に三島は小さく笑う。
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