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第136話 想い 1-1
煌びやかなシャンデリア。耳に優しく響くピアノとバイオリンの音色。そしてそれに紛れて微かに聞こえる食器の触れ合う音。
温かな明かりが灯る空間はセピア色に映り、どこかノスタルジックな風景。赤い絨毯の上を至極満足気な笑みを浮かべて歩く老夫婦を見送れば、その後ろ姿はアンティークの調度品と相まって、まるで映画のワンシーンのようだ。
「またのお越しをお待ちしております」
恭しく頭を下げれば、ぜひまた近いうちにと言って二人は笑った。
「いやー、助かった!」
テーブルの食器を片付け厨房へ入れば、急に肩を叩かれる。その手を振り返ると、ホール係の制服ではなくスーツを着た男が、こちらを見ながらニコニコと笑みを浮かべていた。その姿にふっと重たいため息を吐き出してしまった。
「拓真さん、いきなり声をかけないでください。俺、いま手が塞がってるんで」
にこやかなその笑顔に目を細めれば、悪い悪いと彼は口先ばかりの謝罪をする。
やや目尻の下がった切れ長の目に少し長めの明るい茶髪。人好きする笑みを浮かべる細身でスラリとした彼は、このレストラン、タン・カルムの店長にあたる人物だ。
「でも、ほんとに助かったよ。ホールの子が急に休んじゃって人が足りなかったからさ、ありがとな優哉」
「もうやりませんよ」
元々は厨房専門でこちらはホールのことはあまりよくわからない。忙しい時に駆り出されると、正直足でまといになりそうで嫌なのだ。少し拓真さんの言葉に被せる勢いで告げれば、まあまあとよくわからない返事をされる。
「そう何回も貸して貰えるとは思ってないけどな。料理長がおっかない顔をするし」
ははっと彼が軽く笑えば厨房の奥から、人が足りないなら仕事しろと、噂の料理長に一喝された。
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