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第142話 想い 2-2
なにもない素振りでいても、この人が本当にそう思っているわけがない。
「謝らないでください」
「あ、まだ時間、早いだろ」
「今日はもう上がりでした」
言葉の少し足りない彼の言わんとすることがわかり、素早く訂正してあげれば、そうかと小さく呟き俯く。その姿に俺は思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
通常通りのシフトで上がっていれば、あと少なくとも一時間は遅い。それまでこの人はここにいるつもりだったのだろうか。
「急かしたみたいで悪い」
「もう謝らないでください。あんなメールをもらって急がないわけがない」
「悪い」
謝るなと言った側から、困ったように眉を寄せて目を伏せる。その表情に勢いよく立ち上がり、力任せに彼を抱き寄せた。そして驚きに目を見開いたまま、倒れ込むように落ちてきた身体を隙間なく抱きしめる。
「藤堂?」
「ほんと無自覚過ぎて困る」
彼のほうから初めて送られて来たメールは、本当に短いものだった。それはたった一言だけ――会いたい、その四文字だけだった。
「会いたいと言われて走らずにいられるわけがない」
愛想を尽かされているかもしれないとそう思っていた。それなのに、自分の感情に疎いこの人がこんな我がままを言ってくれるとは夢にも思わなかった。会いたいと思ってくれるなんて考えもしなかった。俺ばかりがこの人のことを考えていると思っていた。
「嬉しかったです」
ぎゅっと抱きかかえ頬に顔を寄せれば、躊躇いがちにおずおずと背中に腕を回された。些細なその行動がたまらなく愛しく思える。彼がこんな風に触れてくれたのはいまが初めてだ。背中に感じるぬくもりがたまらなく温かい。
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