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第143話 想い 2-3

「ちょ、藤堂」 「なんですか?」  けれどなぜか急に彼はしどろもどろになった。その声を訝しく思い、ふいにそらされた顔を覗く。すると視線をさまよわせ頬を赤く染めた表情が映る。 「どうしたんですか」  突然あからさまに動揺し始めたその姿に首を傾げて見れば、背に回された腕は解かれ、わずかに肩を押されて距離を置かれた。なにが原因なのかはわからないが、急な変化に胸がズキリと痛む。愛しいと思う人に、ほんのわずかでも拒絶されるのはたまらなく苦しいものだ。 「嫌、ですか」 「そ、そうじゃなくて」  俺の問いかけに彼は大きく首を左右に振る。 「なんですか」  でも完全に顔を背けられ、だいぶショックだ。けれど相変わらず彼は視線を忙しなく動かす。じっとそれを見つめていれば、俺の袖口を握り、なぜか小さな声でボタンと呟かれた。 「え?」  一瞬意味がわからず眉をひそめてしまったが、やっとそれに気づき思わず苦笑いしてしまう。まさかそんなことで避けられるだなんて思いもよらなかった。 「すみません。急いでたから」  そう謝罪して俺はシャツに指をかける。とりあえず形だけ整え、急いで出てきたので、下のボタンを二つ、三つを留め、ズボンに押し込まれているだけのシャツは、中ほどまで開いてしまっていた。 「見苦しい格好ですみません」 「いや、別に」 「相変わらず、可愛いですね」  俯く顔を覗き込めば、さらに頬が紅潮する。いつもならば文句の一つや二つ飛んできてもおかしくないのに、いじらしいと言うか、男心をくすぐる表情を見せられ調子が狂う。

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