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第145話 想い 3-1
人の一世一代とも言える決死の言葉を、あ然としながら聞いている藤堂。人は予期せぬ出来事に遭遇すると、誰しも同じような反応をしてしまうものなのか。あの日、藤堂に告白された僕の口から思わずついてでた言葉と、まったく同じことを呟き藤堂は瞬きさえ忘れている。
鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこのことかと改めて知った。目の前で微動だにしない藤堂の姿に、僕は先ほどまでの恥ずかしさを忘れ思わず吹き出してしまった。
「……なんで笑うんですか」
突然肩を震わせ笑う僕に、藤堂はムッと口を尖らせる。その顔が拗ねた子供みたいでなんだか可愛い。
「なにかの罰ゲーム?」
「馬鹿、そんなわけないだろ」
どうしたらそんな発想になるのかと、苦笑いをして肩口を軽く拳で叩いたら、訝しげな表情を浮かべて首を傾げていた藤堂に再び抱きしめられた。
「夢だったらこのまま醒めなければいい」
「ちょ、藤堂。どれだけ後ろ向きなんだよ」
藤堂の思わぬ発言にため息をつけば、抱きしめる腕の力が強くなり思わず息が詰まりそうになる。それでもいま早鐘を打つ自分の心臓はそれより痛い。
好きだと思う人に抱きしめられることが、こんなにもドキドキとしたものなんだということを随分と久しぶりに思い出したような気がする。いままでも藤堂に触れられたりすると、鼓動が早くなってしまっていたけれど、いまはそれとはまた少し違う。ふわふわと熱に浮かされたような感じがしてくる。まさに藤堂が言うように――夢なんかでなければいい、とそう僕も思ってしまう。
「さっきから予想外なことばかりで、現実じゃなかったら立ち直れない気がするんです」
ぽつりと独り言のように小さな声で呟く藤堂。その横顔を見上げれば、ぎゅっと寄せられた眉と伏し目があまりにも切ない。
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