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第147話 想い 3-3
「せ、ん」
目の前で藤堂がいままでにないくらい、大きく目を見開いて僕を見た。そんな表情を視界の片隅でとらえながら、僕はなにか言いたげに開きかけた藤堂の唇を自分のそれで塞いだ。
「えっ、あの」
そのほんの一瞬の出来事に、藤堂はよろりと一歩、後ろへ下がってしまった。口元を片手で覆い、俯き視線をさ迷わせている。いまのこの現状を把握しようと、頭の中でぐるぐると考えているのがわかって、見ていて面白い。
「夢じゃないだろ」
終いには頭を抱えてうな垂れてしまった藤堂にそう言って笑えば、勘弁してくださいと呟きながら、藤堂はその場にしゃがみ込んだ。滅多に見ることができない、取り乱した藤堂の姿に優越感に似た感情が湧き上がってくる。
「先生って一度開き直ると強い人なんですね」
すっかり顔を落とした藤堂の頭を撫でれば、少しすり寄るように手に頭の重心が傾く。そういえば藤堂の髪に触れるのは初めてだ。艶やかでさらりとした綺麗な髪を撫でながら梳くと、少しくすぐったそうに藤堂は肩をすくめた。
いつもとは真逆の立ち位置――我ながらこの開き直りっぷりはひどい気はするが、昔から気持ちが落ち着くとあまり怖いものがなくなるところがある。
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