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第150話 想い 4-2
その動揺を悟られないよう、なに食わぬ顔で僕はその横を通り過ぎようとしたが、ふいに右腕を取られ引き止められる。
その瞬間、峰岸の手の感触で反射的に僕の肩が跳ね上がってしまう。
「もしかしてまだ怖い?」
ほんの少し怯んだ僕を見て峰岸は眉を寄せた。心配そうに見つめる視線に、申し訳なさが心の中にこみ上げてくるが、原因はといえばやはり峰岸だ。
「軽くトラウマだ馬鹿」
彼に対して恐怖心はないが、やはりあの状況を思い出してしまうと背筋が冷える。やはりあんな風に触れられて平気なのは一人しかいない。
わざとらしく顔をしかめて睨むと、峰岸はそれを察したのか、にんまりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、今度は合意で」
「誰が合意するか」
悪戯っ子のような目で笑われるとため息しか出てこない。この奔放さは無邪気さと一緒で、まるで小さな子供のようだ。
埒があかないと掴まれていた腕を引くが、飄々とした顔で肩をすくめられるだけだった。仕方なく何度も腕を振って離すよう訴えて見せるけれど、峰岸は一向にその手を離そうとしない。
「藤堂となんかあった?」
「な、なんだよいきなり」
急に真剣な表情でこちらを見る峰岸に声が上擦る。するとまたいつものように、意地悪く笑われた。あの時の問いかけといい、峰岸には多分きっと色んなことがバレている気がする。元々は藤堂と一緒にいることもが多かったと聞いたし、その関係で僕のことを知っていてもおかしくはない。
「変に落ち着いちゃって、センセわかりやすい」
「なにがだよ」
それでも誤魔化すように眉をひそめるが、峰岸は呆れたように肩をすくめるだけだった。
「絶対駄目だと思ってたんだけど、わかんないもんだな」
ほんのわずか顔をしかめながら首を捻る峰岸は小さく息をつく。でも僕だってこんなことになるとは予想もしていなかった。
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