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第151話 想い 4-3
僕が藤堂を選ぶなんて、ついこのあいだまで考えもしない、まったくありえないことだったんだ。
「それよりも、わかんないのはお前のほうだよ。なにがしたいのかさっぱりわからない」
いまだ首を傾げている峰岸に目を細めれば、目を瞬かせ不思議そうな表情を浮かべた。
「俺? わかりやすいだろ」
「いや、わかりにくい」
即答すれば目を丸くしながら峰岸は驚きをあらわにする。その反応にこちらまで驚いてしまった。本人は本当に自分がわかりやすい人間だと思っていたのだろうか。
「お前はわかりやすく見えて、かなり含みがあるんだよ」
この辺はなんとなく峰岸は藤堂と似ていると思う。悪い意味ではなく表側と裏側を上手に使い分けている、そんな感じだ。この二人は真逆に見えて意外と心の性質が近いのかもしれない。いや、このマイペースさは峰岸ならではで、藤堂にここまでのマイペースさはあまり感じられないけれど。
「センセなにを考えてんだ」
「え?」
ぼんやりと考え込んでいた僕の腕を引いて、峰岸はよろけた人の頬に無遠慮に口づける。そしてその感触に我に返れば、楽しげに笑う峰岸の顔が目の前に迫った。
「それ以上やったら埋めるぞ」
しかし突然聞こえた声と共に、目の前にいた峰岸が勢いよく離れていった。
「いいとこだったのに、野暮だなお前」
「どこがだ」
猫のように首根っこを掴まれながらも楽しそうに笑う峰岸。それに対し大きな舌打ちとため息が聞こえた。けれど峰岸はまったく悪びれた様子もなく目を細める。
「藤堂?」
突然現れたそのため息の主に首を傾げれば、掴んだ襟首を引いて、彼は峰岸を自分の後方へ放った。一瞬よろりとしながらも峰岸は立ち止まる。
「お前らはほんと、俺に遠慮がないよな」
「遠慮して欲しければ、もう少し頭使って行動しろ」
「楽しいことにしか頭が働かないんだ俺は」
不機嫌な表情を浮かべる藤堂に反して、峰岸は小さく笑って肩をすくめただけだった。
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