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第159話 想い 6-3

「褒めてんの」  藤堂や峰岸を相手にしていると普通の高校生の基準がわからなくなる。あの二人は変に大人びていて、下手をするとこちらよりもずっと賢くて、太刀打ちできない感じがある。それに比べて神楽坂は実にシンプルで素直だ。これがまさに高校生という快活さがあってこちらも元気をもらえるような気がする。 「褒められてる気がしない」  ふて腐れて眉間にしわを寄せる神楽坂。僕はそんな彼の顔を見て、思わず声を上げて笑ってしまった。するとその笑い声に神楽坂は、突然慌てふためき机の下に身を隠す。 「神楽坂?」 「ライオンが起きた」  急に目の前から消えた神楽坂に首を傾げれば、いまにも消え入りそうな声が聞こえた。 「おいこらヒヨコ。邪魔するなら頭から丸飲みするぞ」 「えっ……ちょ、重!」  ふいに耳元で声がしたかと思えば、途端にずしりと背中が重くなる。その重みに振り返れば、いつの間にか峰岸が僕の背におぶさるようにして寄りかかっていた。 「峰岸、重い」 「センセ、構うなら俺に構えばいいのに」 「いや、意味がわからない」  峰岸の言葉に呆れ、思わず顔を左右に振ると、至極楽しそうに目を細められる。峰岸の悪戯の尺度がよくわからない。 「あ、そうだ、これさ。少し経費がかかり過ぎてないか」 「ん? どれ」  机の端に寄せていた書面を峰岸の目先へ持ち上げれば、肩越しに峰岸の両腕が前に伸びて、それを掴む。しばらく書面を持ったままじっと動かなかった峰岸は、うーん、と小さく唸ったが、それを読み終えると大丈夫だと呟いた。

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