168 / 1096
第168話 想い 8-3
「こんなに傍にいないのが落ち着かなかったり、気持ちが見えなかったりするのがたまらなく不安なのは初めてだ」
だからもっと知りたい、触れたいと思う。些細なことでもどんな小さなものでも、藤堂に関することならなんでも見たいし知りたい。
「もっとたくさん話がしたい。お前のことを知りたいよ」
二人きりで長く一緒にいたのも、藤堂を近くに感じられたのも、初めて二人で出かけたあの日だけだ。あの時はあまりにもショックで、一緒に出かけなければよかったなんてそう思ってしまったけれど、やはりあの時が一番藤堂に近づいた気がする。
「もう一度」
「どこか二人で行きませんか」
「えっ」
突然聞こえたその声に身体が跳ねた。そして身体を伏せたままの藤堂を覗き込めば、バチリと目が合い、さらに肩が跳ね上がる。
「起きてたのか!」
目を細めて笑う藤堂から慌てて離れると、彼はゆるりと身体を持ち上げた。
いつから起きていたのか知らないが、間違いなく恥ずかし過ぎる独り言は聞かれていただろう。茹で上げられたように顔が熱くて、火が出そうだ。
「せっかく佐樹さんが触ってくれてるのに、もったいなくて起きられません」
なに食わぬ顔でそんなことを口にする藤堂は、うろたえて視線をさまよわせる僕の頬を指先で撫でる。
ともだちにシェアしよう!