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第170話 想い 8-5
「ふぅん」
その理由があまりにも現実的で、藤堂の堅実な部分がよくわかる。いるものはいる。いらないものはいらない。結構好き嫌いなんかもはっきりしていそうだ。
「佐樹さんがないほうがいいって言うなら考えますけど」
「いや、いい。眼鏡でいい!」
藤堂の言葉に僕は大きく顔を左右に振った。
普段からなに気なく笑いかけられるだけでも、顔が緩んだり鼓動が早くなったりするのに、素顔でいられるとなおさら心臓に悪い気がする。だから藤堂はレンズ一枚隔てているくらいがちょうどいい。それに誰かに素顔を見せるのがちょっともったいない。
「佐樹さんって、もしかして俺の顔が好き?」
「は?」
「嫌い?」
まるで僕の心を読んだかのような問いかけに、僕は明らかに怪しい動揺をあらわにしてしまった。いまはっきりと認識してしまったが、僕は多分、いや絶対に藤堂の顔が好みなんだと思う。
「き、嫌いじゃない」
「そうですか。よかった」
好きだとは言えずに曖昧な答え方をしてしまったが、僕の答えに満足したのか、嬉しそうに笑って藤堂はいつもの藤堂に戻る。
「それより佐樹さん。どこに行きたいですか?」
「えっ、ちょ、藤堂」
首を傾げた藤堂を見下ろし、僕は慌てて身を引く。けれどそれを遮るように、腰へ回された腕が僕の身体を引き寄せた。
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