171 / 1096

第171話 想い 8-6

「しっ、あんまり大きい声を出すと廊下に響きますから、ね」 「誰か来たらどうするんだよ。学校ではスキンシップ禁止」  ぎゅっと腕に力を込められ、それを咎めるように軽く叩けば、藤堂は少し不服そうに目を細める。 「学校でしかほとんど会えないのに、触れられないのって結構拷問です」 「うっ、でもな」  それを言われてしまうとかなり弱い。僕も本当はもう少し傍にいたいと思うし、触れていられたらいいなとも思う。 「わかってます。佐樹さんを困らせたいわけじゃないですから」  うろたえた僕を見て困ったように笑う藤堂。逆に彼を困らせているのは自分だ。体裁など気にせず傍にいられればいいのだろうけど、そう簡単に行かないのが現実だ。 「来週から連休に入るので、どこか行きましょう二人で」 「あ、うん。そうだな」  離れた藤堂の手は抱きしめる代わりに僕の両手を握った。 「佐樹さんはどこに行きたい?」 「お前の行きたいところでいい。連休中もバイトあるんだろ? 数少ない休みなんだし」 「俺の、ですか?」 「ああ」 「そうですね、じゃあ」  しばらく考える素振りを見せていた藤堂は、なにかを思いついたのか、ふいに顔を上げて笑みを浮かべる。  そして彼の言葉に僕は目を丸くした。 [想い / end]

ともだちにシェアしよう!