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第210話 休息 10-1

 ふとした瞬間。相手の心の内側が見えたらいいのにと、思ってしまうことがある。触れられない見えない場所を見つけて心許ない気持ちになる。 「藤堂」 「……どうしたの佐樹さん」  呼び止めればなに気ない顔をして振り返る。変わらない、いつもと変わらないようなそんな気がするけど、どうにも様子がおかしい気もする。 「明良となにを話した?」 「またそれですか」  首を傾げた藤堂を訝しげに見つめれば、ふっと眉尻を下げて困ったように笑う。どこか曖昧な笑みに胸がざわめく。 「優哉くーん。こっちもいいかしら」 「あ、はい」 「ちょ、藤堂」  僕を見つめていた目がふっとそれる。キッチンで手招く母に返事をして、そのまま立ち去ろうとする藤堂の腕を思わず掴んでしまった。 「……佐樹さん?」  掴んだ腕を強く引くと、驚きをあらわにした藤堂が固まったように動かなくなる。それはなにかを警戒するように息を詰めているようにも見えた。 「さっちゃん! 優哉くん独り占めしないの」 「してない!」  痺れを切らしたように再び声をあげた母に、僕は思わず大きな声をあげた。けれどそうこうしているうちに、藤堂はするりと僕の手から離れ母のいるキッチンへ行ってしまった。 「逃げられた」  二人並んだその姿を見つめ、僕は大きなため息を吐いた。曖昧にはぐらかされ、なにもわからないことがすごくもどかしくて、少し胸が痛くなってくる。

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