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第212話 休息 10-3
「ほら、あなたたち。飲んでばっかりいないで、ご飯の準備手伝って」
三人のあいだに沈黙が生まれた次の瞬間、両手を打った母の声が響いた。振り返ると母が呆れた顔をして僕たちを見下ろしている。
「はーい」
「うーっす」
既に二人で十缶ほど開けていた佳奈姉と明良は、手にしていた飲みかけの缶を飲み干すと、テーブルの上に転がっていた空き缶を拾う。
「お前らにとって、もはや水だよな……それ」
相変わらず二人が揃うと酒代が半端ではない。冷蔵庫に入り切らずに積み上がっているビール缶を見てため息が出た。
「もう、さっちゃんも佳奈もおうちのこと全然なんだから。お母さん優哉くんみたいな、いい子がよかった」
布巾でダイニングテーブルを拭きながら佳奈姉と僕に目配せすると、母は小さく口を尖らせる。けれど普段からまったくと言っていいほど家事をしない僕は、なにもできずに立ち尽くしてしまう
「これ、どうしますか」
「え?」
突然すぐ傍で聞こえた声に思わず肩が跳ね上がる。その反応を背後で見ていた明良は、僕の耳元で小さく笑った。
「佐樹、動揺し過ぎ」
「うるさい!」
「あ、優哉くん。それはこっちに置いて。ごめんね、なにからなにまでしてもらって」
傍に立っている藤堂に気がついた母は、彼の両手を塞いでいたものを受け取り至極嬉しそうに笑みを浮かべた。
「いえ、大丈夫です。嫌いじゃないので」
「んー、もう。気が利いて、優しくてお料理もできて、性格もよくて男前で、どうしたらこんな風に育つのかしら」
「あのな、人間向き不向きがあるんだよ。ないものねだり」
頬を膨らませふて腐れる母に肩をすくめれば、再び口が尖る。まるで子供みたいな表情を浮かべる母にため息が出てしまう。
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