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第216話 休息 11-3
「明良、次の日覚えてなかったら……わかってるよな」
「酔いも覚めるような怖い顔すんなよ」
大丈夫大丈夫と軽い調子で笑いながら、明良は酔いつぶれた佳奈姉を軽々と背負う。その様子はあれだけ飲んでいたことをまったく感じさせない足取りだった。
「で、藤堂は?」
「え?」
「え、じゃない。笑って誤魔化さない」
「厳しいな」
苦笑いを浮かべて片手を広げた藤堂に僕は大きく息を吐き出した。まっすぐに伸びた指先でその数を見留め、予想以上の量に肩が落ちる。
「馬鹿」
「すみません」
申し訳なさそうに謝る藤堂に目を細めながら、僕は仕方なしにテーブルの上で転がる空き缶を拾った。佳奈姉を部屋に放り込んだら、恐らく明良はそのまま戻って来ないだろう。結局、このパターンか。
――ほんとにお姉さんと明良くんは仲いいよね。
小さな笑い声が聞こえる。先ほどから随分と懐かしい声がするのは、なぜだろうか。藤堂のことを考えていたはずなのに、昔の記憶が頭をよぎる。忘れられない人――あの言葉のせいだろうか。
「佐樹さん」
「ん? なに、どうした」
急に背後から抱きついて来た藤堂を振り返ると、すり寄るように頬を寄せられた。ほんの少しいつもより高い体温がくすぐったい。
「素面みたいな顔して、酔ってるな」
「……少し」
甘えた声や背中にかかる重みさえ愛しいと思う自分はやはり相当だ。
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