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第217話 休息 11-4
藤堂を甘やかすことが好きだと以前も思ったけれど。きっとほかの誰にも見せない、自分だけに見せる姿が優越なのかもしれない。
「今日は疲れただろ」
テーブルの缶をとりあえず一箇所にまとめ藤堂へ向き直れば、目の前に至極嬉しそうな笑顔があった。
「楽しかったですよ。あんな風に食卓を囲むなんてことは普段あまりないですし、なによりも佐樹さんとこうして一緒にいられるのが、本当に幸せです」
「大袈裟なやつ」
見ているこっちが溶けてしまいそうな微笑みと、優しく額に落ちた口づけに胸の辺りがぎゅっと締めつけられる。
「でも」
確かに幸せだ――不安になることも多いが、それを補ってあまり得るほどに藤堂といると幸せだと思う。
「でも?」
途切れた僕の言葉に藤堂は不思議そうに首を傾げる。
「……ん、お前が好きだ」
「どうしたんですか、急に」
一瞬だけ驚きに目を見開いたけれど、藤堂はすぐに小さな笑みを浮かべて僕を強く抱き寄せた。
「なにを言われても信じるのは僕だけにしろよ。いまはお前だけだからな」
多分きっと、いま藤堂がこの手を離していなくなってしまったら、どうにかなってしまいそうな気がする。自分でも驚くほど重たい感情が常に胸の内にあって、僕はひどく藤堂に依存している気がする。
焦燥するくらいに誰かを愛しいと思ったのは初めてだ。
「そんなこと言われたら、さらに酔いが回りそうです」
でも、そう言って泣きそうに笑う藤堂の不安を煽る記憶が、僕の中にある。もう随分と時間が経って、忘れたと思っていたのに頭の奥底にまだある。――いや、違う。そうじゃない。
ずっとあったんじゃない。本当は忘れていた。でも藤堂が傍にいるようになってから、時々、彼女の声が蘇るんだ。
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