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第218話 休息 12-1

 彼は急に押し黙り視線をそらすと、眉間にしわを寄せ俯いてしまった。そんな姿を俺は訝しげに見つめる。 「佐樹さん?」  俺はなにかおかしなことを言っただろうか。高々ロング缶のビール五本程度で酩酊しないが、久しぶりに飲んだので思ったより回っている。自分が感じているよりもひどいのか。 「……違う」 「え?」  そうぽつりと呟いたかと思えば、突然すがりつくように抱きつかれ、驚きで身体が動かなくなった。しかし戸惑いながらもその身体を抱き締めると、ぎこちない指先が俺の背にしわを作る。 「お前はどこにも行くなよ」  震える小さな声。なだめるように優しく彼の髪を梳くと、ますます指先に力がこもるのが切ない。 「あなたを置いてどこへ行けって言うんですか」 「わからない」  ゆるりと振るその顔に影が落ちる。 「やっぱり、いまも忘れられない人がいるんですね」  ため息と共に自分の口から吐き出されたその言葉は、ひどく胸に突き刺さる。この人の頭の中に、自分以外の存在があることがたまらなく嫌だと思う。子供っぽい嫉妬心だと言われても耐えがたい。 「ち、違う、誤解だ。忘れられないわけじゃない、本当は忘れてたんだ。それなのにお前が傍にいるといつの間にか思い出して」 「……え?」  突然大きな声を出した彼をじっと見つめると、身体が跳ね上がり視線も揺らめく。 「悪い」  そう言って俯いたまま、さらに頭を下げた彼の肩が小さく震えた。

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