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第219話 休息 12-2

「謝らないでください。なんだか別れ話をされてるみたいで嫌です」 「そ、そんなつもりはない」 「俺はその人に似てますか?」 「……えっ」  彼は顔を上げて戸惑ったように瞳を揺らめかせた。我ながらひどくつまらないことを聞いたと思う。 「そんなことない、全然似てなんか」 「じゃあ、無意識?」  似ているから、無意識に俺を選んだ?  困惑した表情を浮かべる彼にひどく冷たい声が出た。そんな顔をさせるつもりなどなかったのに、妙に心が焦る。ちょっと雰囲気が似ていると言われたくらいなんだと、鼻で笑えるほど彼に関して自分は強気ではいられない――言葉とは裏腹に、俺は情けないくらい震えた手で彼を抱き締めた。 「明良か、お前にそんなこと言うのは」 「俺が、勝手に不安がってるだけです」 「だとしたら、藤堂を不安にさせるようなことを、僕がしたんだな」 「あなたが悪いわけじゃない」  勝手に視線の先を想像して、自分勝手に恐れ傷ついているだけだ。確かにこの手の中に彼がいるはずなのに、どこか遠くへ消えてしまいそうで怖くなる。 「お前と彼女は、見た目も性格も全然似たところはない。それにお前が心配するようなことは起こらない。もういない、もう過ぎたことなんだ」 「もう、いない、過ぎた、こと?」  躊躇いがちに問えば、彼は苦笑いを浮かべながら腕を伸ばし俺の首にそれを絡めた。  すり寄る身体を抱き寄せ、彼の言葉を馬鹿みたいに復唱しながら、ああ、なんて厄介なんだろう――そんな言葉が頭に浮かんだ。先立つ者はいつだって残された者の心に長く居座り、なかなか去ろうとはしない。

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